令和3年4月から新しい介護報酬が始まりました。基本報酬だけ見れば上がった介護報酬ですが、これまであった加算がなくなったり加算額が減少したりと実は喜べないものでした。これまでと同じサービスを提供していたら今年度の売上は前年度を下回る事業所が多いかもしれません。それがわかりつつ、4月12日には各種加算の届け出期限、4月15日には処遇改善加算関連の計画書の提出期限とばたばた忙しい新年度の始まりになりました。
科学的介護情報システム(LIFE)の利用
科学的介護情報システム(LIFE)が4月から始まりました。このLIFEについては公式Webサイトから利用申請を行ってID・パスワードが記載された葉書を受け取る必要があります。短期間で多数の申請があったことからこの葉書について未発送状態にあったとのことですが現在は解消されています。多くの介護事業所の関心の高さが伺えます。
私のクライアントを見てみると、積極的に算定する事業所と様子見の事業所に2極化しています。経営者の判断や現場とのやりとりの結果であり、諸事情や思惑が交錯しているのでどちらが正解というものでもないですが、介護保険の将来を想像してみるとどうやらLIFEに取り組んで加算を算定していく姿が当たり前になっていくように感じます。
厚生労働省は介護サービスを科学的な効果が裏付けされた自立支援・重度化防止に役立つ質の高い介護サービスへ移行をしたいと考えています。さらにLIFEに集まったビッグデータを活用したPDCAサイクルによって、さらなる質の向上につなげたいとしています。これまでアウトカム評価、質の評価の導入が検討され、そのための準備としてCHASEやVISITが稼働していましたが、それらを統合させてさらに介護事業所から利用者の状態像や提供されたケアの内容を加味して新たにLIFEとして本格稼働させました。もうこの流れは本流となっています。もしこの本流に乗り遅れてしまった介護事業所は、近い将来に淘汰にもつながっていくのではないかと案じています。
さて、今回LIFEに関連する加算として導入ハードルを下げた科学的介護推進体制加算が用意されました。40単位~60単位/月の新設で、利用者一人当たり月に数百円というレベルです。この加算を算定するためには、すべての利用者や入所者のADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他の入所者の心身の状況等に係る基本的な情報(施設系サービスの科学的介護推進体制加算(Ⅱ)では、加えて疾病の状況や服薬情報等の情報)を厚生労働省に提出していることとされています。ただし、提出頻度は、既存の利用者については加算の算定を始める月の翌月10日まで、新規の利用者についてはサービス利用を始めた月の翌月10日まで、2回目以降は少なくとも6ヶ月ごとに翌月10日まで、サービス終了する利用者についてはサービスを終了する月の翌月10日までとなっています。情報提供すべき月にできない時は、直ちに届け出が必要で、この場合、利用者全員について加算が算定できないとなっています。新規利用者について提出の失念はないと思いますが、利用が終了した利用者の場合については忘れ止めが必要となりそうです。
そのほか、個別機能訓練加算(Ⅱ)、ADL維持等加算、褥瘡マネジメント加算、自立支援促進加算、排せつ支援加算、栄養マネジメント強化加算等が新設されました。現状すでに取り組んでいる介護サービスの延長として取りやすい加算ではないでしょうか。今回のLIFE関連の新加算の特徴として、月額の報酬となっていることが気になります。これまで、回数が増えればその分得られる加算報酬も増えるという相関関係がありましたが、今後は包括報酬としての定額制が前提となっていくのでしょうか。事業所にとっては残念ですが、国は介護保険財政を安定させていきたいと考えていることがわかります。
LIFE取り組みのメリット
ゆくゆくはLIFE参加が当たり前の状態になっていくと考えるべきだと思います。その時に慌てて参加するよりかは官も民もまだ始まったばかりの時から参加しているほうが情報を入手しやすく、LIFEにまつわる成功も失敗もすべて経験となっていくと思います。もちろんLIFEに情報を提出する手間は増えますが、介護記録ソフトも徐々にLIFE対応しています。ソフトからCSVデータを出力してそのまま添付して送信するという比較的手間がかからないものと言えます。
LIFEからのフィードバックも期待したいところです。事業所として勘便りの介護サービスから科学的根拠に基づいた介護サービスに変わっていくと事業所にとっても新たな気づきにもなると思います。そして、利用者への説明もエビデンスを明示しながら行うこととなり利用者やそのご家族の理解も深まっていくと思われます。医療機関との連携時にもLIFEに取り組んでいることは高評価になるのではないでしょうか。
介護報酬は右肩下がりの傾向が続いていきます。基本報酬は安泰ではありません。売上が減る傾向の中で算定できる加算があるのであれば算定していく姿は健全な経営方法だと思います。令和3年度は「まずはやってみる。」という攻めの姿勢と柔軟な経営を行ってみませんか。
「LIFE」対応の介護ソフトについて
ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。介護請求ソフト「楽すけ」も利用者情報をLIFE対応のCSVデータに出力できるようになりました。重複するところがない項目についてはLIFEの入力フォームから直接入力する必要がありますが、標準のサポート契約の範囲で、追加費用なしにバージョンアップできるので、「まずやってみる。」助けになるのではないでしょうか。
介護請求ソフト「楽すけ」についてはこちら
1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/