令和2年12月14日、厚生労働省から令和3年度の介護報酬を0.7%引き上げる旨の発表がありました。うち0.05%部分はコロナ対策経費分として令和3年9月までの措置とのことです。それにしても2回連続のプラス改定は大変ありがたい事です。

一方で忘れてはならないのが、令和3年度介護報酬改定の中身です。令和2年12月23日に、社会保障審議会介護給付費分科会から「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」公表されました。これは、第196回社会保障審議会介護給付費分科会資料「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の改正等に関する事項について(案)」、第193回及び第194回社会保障審議会介護給付費分科会の審議資料がベースとなっています。

原文はこちらです。

〇令和3年度介護報酬改定に関する審議報告

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000188370_00002.html

〇指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の改正等に関する事項について(案)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000703137.pdf

〇第193回社会保障審議会介護給付費分科会

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14716.html

〇第194回社会保障審議会介護給付費分科会

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14888.html

今後の予定として、令和3年1月中旬以降に介護報酬単位が公表され、2月に解釈通知が発出、3月に介護報酬Q&Aが発出、そして4月より介護報酬の改定がスタートします。何がどうなるかは実際の報酬単位や算定条件が公表されるまでは憶測の域を出ませんが、改正案や審議された資料の中で気になる部分を見ていきたいと思います。

通所系サービス

通所系サービスでは自立支援・重度化防止に向けた改正が目立ちます。1つ目は個別機能訓練加算です。小規模事業所の場合、機能訓練指導員の配置が難しく算定率が低いと指摘されています。そのため、配置時間の定めのない機能訓練指導員を1名以上専従配置することで算定できるように見直される予定です。また、現状の個別機能訓練加算(Ⅰ)及び(Ⅱ)は統合されます。その代わりにサービス提供時間帯通じて機能訓練指導員を1名以上専従させた場合、上位の区分の算定ができるようになります。

実際にふたを開けてみての対応となりますが、小規模事業所の場合、加算の算定が可能かどうか費用対効果の面から検討すべきですし、すでにサービス提供時間帯通じて機能訓練指導員を1名以上専従させているのであれば上位の区分を算定して売上減を回避する必要があります。

2つ目は入浴介助加算です。これまでの介護保険制度では、多くの介護事業所が加算を算定するようになるとその加算は縮小・廃止されることがありますが、今回もそのようになりそうです。現行の入浴介助加算は縮小され、上位の加算が新設される見込みです。上位の加算算定にあたっては、一定の職種が利用者宅を訪問して浴室環境を把握した上で、個別入浴計画を作成し、利用者が自宅でも利用者自身又は家族の介助により入浴を行うことができるようにしようというものです。訪問介護サービスによって自宅で入浴介助を受けている利用者も多くいると思いますので、他介護サービスとの多職種連携が必須になります。また、個別入浴計画の作成が義務となるので書類作成にどれほど時間や労力がかかるのかもよくよく検討する必要があります。

訪問介護

通院等乗降介助について、これまで出発地及び到着地が居宅以外である目的地間の移送は、介護サービスが提供できませんでしたが、今後は自宅に戻らなくても最終地点が自宅であれば、介護サービスを使って通院のはしごができるようになります。利用者にとっても喜ばしく、訪問介護事業所にとっても効率のよいサービス提供につながります。

一方でヘルパーの成り手が減少し、訪問介護事業所の人手不足の問題が顕著になってきました。事業所数自体も減少傾向にあることから、ヘルパーとして就業したくなるような労働環境にしていかないと在宅介護が立ち行かなくなってしまう可能性もあります。資料によると訪問介護の特定処遇改善加算の算定率は(Ⅰ)(Ⅱ)合計で53.7%と他の介護サービス平均65.5%と比較して低調です。特定事業所加算の算定条件が厳しいことも1つの要因のようです。訪問介護員の給与アップによりヘルパー事業所を就業先として考えてもらえるように最低限取り組むべき課題だと思います。

そこで、訪問介護の特定事業所加算について、事業所を適切に評価する観点から、訪問介護以外のサービスにおける類似の加算であるサービス提供体制強化加算の見直しを踏まえて、「勤続年数が一定期間以上の職員の割合を要件とする新たな区分」が設けられます。訪問介護事業所には特定事業所加算を算定してもらい、処遇改善加算及び特定処遇改善加算もしっかりと算定してスタッフにしっかりと還元してほしいという国の考えが伝わってきます。

認知症対応型共同生活介護

ユニット数の増設とサテライト型事業所は、定員増が可能であれば事業拡大が期待できます。もし本体で3ユニット、サテライトで2か所×2ユニットの全7ユニットまで増やせれば、大きな収益の柱となります。もともとグループホームは安定した収益の柱となりやすいので、併設する通所介護等の波のある事業を支えてくれる存在となるでしょう。

夜勤職員の配置は当初1ユニット1名から2ユニット1名体制に大きく舵を切るような提言が行われましたが、結局は原則1ユニット1名のまま、3ユニットの場合等で例外的に夜勤2人以上の配置に緩和できることとなりました。この点に関しては当初の案で進めた場合、介護報酬減は免れず余剰人員をなる職員をどう異動するかなど大変な事態になったと思いますので、まずは元の鞘におさまって良かったと胸を撫でおろしました。

ケアマネジャーのユニットごとに1名以上の配置から、事業所ごとに1名以上の配置に緩和する案は、ケアマネジャー等の採用が困難化している事業所にとっては良かったとも言えます。しかし、すでに適正人数を配置している事業所にとっては介護報酬減の方向となることから望ましくない改正案となります。現状勤務するケアマネジャーの負担は当然増えますし、人員を現状維持で進めれば赤字になる可能性もあります。経営者の頭を悩ます大きな問題となります。

居宅介護支援事業所

特定事業所加算(Ⅲ)の下位区分に事業所間の連携を促進させる加算が新設されます。常勤の主任ケアマネジャー1名、常勤のケアマネジャー1名及び非常勤のケアマネジャー1名とこれまでよりも人員の条件が緩和され、24時間連絡体制の確保も連携でも可能といったものになっています。訪問介護と同じく居宅介護支援事業所のケアマネジャーも成り手が減ってきており、小所帯の居宅介護事業所は特定事業所加算の算定が難しく万年赤字というところも少なくありません。少しでも収入が増えることは喜ばしいことです。

また、ケアプラン数が40件を超えると介護報酬が逓減される措置もICT活用の条件によって45件超からに緩和されます。そうは言っても40件でさえもいっぱいだと考えるケアマネジャーもいることからもろ手を挙げて喜ぶ内容ではないかもしれません。ただし、ケアプラン作成に対してAIの活用を将来的に導入したいと国は考えているはずです。今後45件にとどまらず、緩和されていくのではないかと思います。

いつもふたを開けてみないことにはわからない介護報酬改定ですが、まずはプラス改定というニュースが飛び込んできましたので、肩の力を抜いてみましょう。そして、年明けに発表される介護報酬単位から試算を行って現状で経営した場合の影響額を算出して対策を考えていきましょう。

藤尾智之氏
税理士・介護福祉経営士

1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/