令和2年4月16日、政府は全国に緊急事態宣言を発令しました。誰もが新型コロナウィルスに感染してもおかしくない状況です。そのような状況下で介護事業所の経営者も現場も不安の中で仕事をしています。一人でも罹患してしまえば多くの関係者が濃厚接触者となり事業所の閉鎖は免れません。その場合、売上はなくなってしまい、事業所としての体力(資金)がなければ倒産してしまいます。経営者は楽観的な見通しはせずに最悪を想定して経営をすべきです。

 経営は、資金があれば安定します。一般的に、流動資産は流動負債の3か月分あれば良好な経営と判断されます。しかし、今回のケースは3か月では不十分かもしれません。仮に一時閉鎖した場合に通常営業に戻るまでの期間は想像をはるかに超えるかもしれません。そのため、今のうちに資金を確保しておく必要があります。

融資申し込み先は3通りを検討する

自治体

多くの市区町村では新型コロナウィルス感染症対応のため、緊急経営支援特別資金等の名称で無利息にて融資をしています。融資条件は例えば、最近1か月間の売上高が前年同月比で▲5~10%以上となっています。融資限度額は500万円ほどでそれほど融資枠は大きくないですが行政機関ということもありますし、利息もかからず、資金を使用していなければそのまま返済をするだけなので、融資を受けておく価値はあります。

日本政策金融公庫

次に日本政策金融公庫の新型コロナウィルス感染症特別貸付です。国民生活事業としての融資限度額は6,000万円、中小企業事業の融資限度額は3億円となっています。融資条件は、最近1か月間の売上高が前年同月比で▲5%以上となっています。利息は特別利子補給制度を併用することで実質的に無利子となります。日本政策金融公庫の窓口は大変込み合っています。私がよく利用する東京支店は1日の申し込みが200件を超えるとも聞きました。行員の方々は土日返上で手続きをしています。書類をしっかり整えてまずは郵送で申し込みましょう。その際、顧問税理士に頼んで、日本政策金融公庫の担当者へメールをしてもらうことをお勧めします。担当者の記憶に残るようにしておくだけでも融資実行までの日数が少し短縮できるのではないかと思います。

民間金融機関

最後に民間金融機関です。地元の銀行や信用金庫等の民間金融機関でも無利子・無担保融資ができるように検討が始まっています。内容としては、ゴールデンウィーク明けごろには詳細が明らかになり申し込みできるのではないかと考えています。

持続化給付金

経済産業省では、新型コロナウィルスの感染症拡大によって事業に大きな影響を受ける法人企業に対して、最大で200万円の給付金を予定しています。資本金10億円未満の企業に限定されますが、今回は社会福祉法人も対象となるので、幅広い企業が対象となります。給付を受けるにあたって売上高が前年同期比で▲50%以上となっている月が必要です。計算式は次の通りです。なお、対象となる月は、2020年1月~2020年12月の間の任意の月となります。

前年の総売上高 - (前年同月比▲50%以上の月の売上高×12か月)= 持続化給付金(上限200万円)

この給付金は、国会での補正予算成立が必要なため、申請開始時期はゴールデンウィーク明けと見込まれています。給付開始時期は早くて5月後半です。

介護事業所にとって、売上高前年同月比▲50%という数字は、通常では考えられませんが、例えば通所サービスの場合、3密を避けるために定員を減らして受け入れたり、月の半分を休業したりした場合は該当する可能性があります。準備だけでも進めておいたほうが良いと思います。今のところできる準備は、①法人番号を調べておく、②確定申告書類一式の用意、③減収した月の売上がわかる帳簿等の用意です。自社の法人番号は、インターネットで検索できます。

なお、昨年創業した場合等、前年実績がない場合においては、今はまだ指針は出ていませんが今後対応を検討することとしています。

雇用調整助成金

厚生労働省では、新型コロナウィルス感染症特例措置として、雇用調整助成金を拡充させています。4月1日から6月30日の間(以下、緊急対応期間。)に行われた休業について、従業員に休業手当を支払った場合、1人1日あたり最大で8,330円が助成されます。支給基準は、緊急対応期間において、直近1ヶ月の売上高が前年同月比▲5%以上となっていることです。この助成金を受けるためには、計画届と支給申請が必要ですが、計画届は事後提出が認められています(事後提出の期限は6月30日)。

なお、この雇用調整助成金については書類の作成が難しく、問い合わせようにも電話がつながりにくい状況で申請があまり進んでいないようです。オンライン申請ができないため、書面での書類作成の途中で諦めたという声も聞きました。とはいえ、休業手当を支払った場合は、申請できますし、特例措置等で助成金の助成率も改善されています。

支給要領や申請書類は、これからも変更がされる予定ですので、最新の情報をご覧ください。
(厚生労働省 雇用調整助成金 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html [外部サイトが開きます])

6月、7月の賞与の検討

一般的に6月~7月は賞与の支給月です。賞与は、査定期間が支給月前の半年間なので、今回の新型コロナウィルスの影響がない期間が半分程度含まれます。そのため、賞与支給額を減らすことはできてもまったくのゼロ回答というのも難しい状況です。そうなると資金が間に合うのかどうか心配になります。4月の介護報酬は6月後半、5月の介護報酬は7月後半の入金なので、顧問税理士との月次の打合せ時はいつもよりも資金繰りについて時間を割いていただければと思います。

藤尾智之氏
税理士・介護福祉経営士

1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/