令和2年2月25日に政府から、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が発表されました。感染しやすい環境を避けて欲しい、発熱症状があったら会社や学校を休んで欲しいというものでしたが、介護事業所にとって具体的に何かというものはなかったように感じます。市区町村単位では、介護事業所向けに対応を呼びかけているところもあるようですが、介護事業所の具体的対応について言及しているところはなく、あくまでも事業所判断に委ねられている状況です。

さて、仕事がら介護事業所の経営者に会う機会が多いのですが、この1週間は新型コロナウイルスの話題が増えています。そもそも事業所のサービスをこのまま続けて良いのか、スタッフや利用者が罹患した場合にどう対応するのか、イベント開催や子供食堂の営業はどうするのか等、どの事業所も共通した問題に悩んでいることがわかりました。実際には個別対応になると思いますし、明確な解答はないと思いますが、私が特養時代に第1種衛生管理者として衛生管理業務を行っていた経験を思い出し、そして、この1週間で実際に経営者と話しをした内容をまとめてみましたので、もし判断に悩まれているようでしたら参考にしていただければと思います。

介護サービス提供の中断

今のところ介護事業所からサービス提供を中止すると判断した事業所は私の知る限りありません。一方で、利用者から新型コロナウイルス予防のために、通所サービスの利用を一時的に中断したいと申し出があったというケースはありました。実際に行政からの介護サービスの中止勧奨でもなければ、事業所自らがサービス提供を中止するという決断はできないと私も思います。

面会・見学の一時中断

特養やグループホーム、有料老人ホーム、サ付き等入所系サービスは圧倒的に面会を中止している事業所が多いです。外から持ち込まれてしまえばもう防ぐことができないことから、外部から遮断をするべきとの判断のようです。ボランティアについては、判断が分かれるところですが、私の知る限り、受け入れを中断して可能な限り外部から遮断するという考えを守っているようです。サービス利用前の見学、学識研究のための研修についても、入所系サービス・通所系サービスを含めて新規については受け入れをストップしています。

スタッフの出勤について

満員電車で出勤しなければいけない場合が一番頭を悩ませる状況です。時差出勤で1時間早く出勤してもらえれば良いが、事業所側からお願いすると1時間分の超過勤務が発生してしまうので、事業所側から言い出せないと頭を悩ます経営者もいます。解決策として、この持ち出し分について、処遇改善加算を充当して早朝手当という形で支給することも可能だと思います。また、例えばですが、電車通勤以外のスタッフを日勤帯(出勤時間が電車のラッシュ時間帯となるシフト)にあてて、電車通勤者を早番か遅番にあてて時差出勤を行わせて、1週間~2週間の間はしばらく運用してみるということが想定されます。いずれにしても、事業所に入る前には手指の消毒は絶対に必要です。

イベントの開催について

多くの介護事業所では季節に合わせてイベントを開催していますが、最近は軒並み中止にしています。イベントは集団を作ることとなり、参加者の多くは高齢者であることから中止の判断はそれほど難しいものではないようです。そして、家族懇談会等入居者・利用者の参加が想定されない会合も含めて自粛しています。最近増えている外部向けの食堂や喫茶ですが、事業者の判断が分かれています。具体的には、入居者や利用者の利用のみに限定する、外部者だけに限定する、営業を自粛する等対応バラバラです。しかしながらヒアリング時点ではどこも判断しきれない状態でしたので、今後は状況を見て判断していかないといけないと思います。

マスク・ディスポ手袋や消毒液の適切な保管

介護事業所の冬のシーズンはインフルエンザやノロウイルスが発生しやすいため、マスク・ディスポ手袋やアルコール・次亜塩素酸等の消毒液は十分にストックされているようです。しかしながら病院の倉庫から急に在庫がなくなってしまう事件も発生しているようですので、在庫管理はしっかりと行い、鍵がかけられるのであれば施錠しておくことが必要です。面会者向けに置いておいたマスクがごっそりとなくなっていたということも耳にしましたので、受付に無造作に置いておくことも避けたほうがよさそうです。

スタッフや利用者に発熱がみられる場合

風邪やインフルエンザに罹りやすいシーズンでもありますが、スタッフの場合は自宅待機をしてもらって、各都道府県が開設している電話相談窓口か最寄りの保健所へ相談するという対策を考えているようです。入居者の場合は、居室での隔離対応となるようです。多床室の場合は静養室などの個室へ移動していただき、嘱託医や協力医療機関との相談、家族への連絡、行政への報告としているようです。

実際には私のヒアリング先では、罹患したスタッフも利用者もいない状況であることから、上記のような事務的な対応としていますが、実際に事業所内で新型コロナウイルスの罹患者が発生した場合、おそらく全員が濃厚接触になってしまいます。通常の介護サービスはできなくなり、行政機関との相談の上どのように対応していくかの協議になると思います。

最後に

ウイルスがあってもなくても、マスクや手袋の着用、そして、一手技一手洗いは基本だと思います。絶対にウイルスや細菌を事業所に持ち込まないという意識をスタッフ全体に徹底して持ってもらうことが必要です。くれぐれも、経営者自らスタッフに対して飲み会や外部イベントへの参加は自粛をお願いしておいて、自分だけは大丈夫と思って飲み会に参加することがないようにご注意ください。

藤尾智之氏
税理士・介護福祉経営士

1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/