介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という)は、要支援認定を受けた高齢者及び近い将来、要支援、要介護状態が予測される高齢者の自立と安心を支えるための制度です。総合事業では、ボランティアや民間事業の活用など、既存の枠組みに捉われないサービスの創出も期待されています。ここでは、新しい制度への移行に先駆けて総合事業を導入した市町村の事例を紹介します。
市町村ごとに異なるニーズ
総合事業では、市町村が独自の判断により介護予防や生活支援サービス等を創出、提供することができます。介護保険制度のもと要介護度を基準とした 介護サービス が提供されるのではなく、より住民の視点に立ったサービスを尊重するのが大きな特徴の一つです。
そのため、各市町村では、地域の特性や住民ニーズを十分に把握した上で、サービスを展開する必要があります。また、多様な社会資源やマンパワーの活用、住民互助を通じ、地域ぐるみで高齢者の生活を支える仕組み作りを推進していかなければいけません。
総合事業を実施済み市町村の事例
ここで全国の市町村で実際に行われている事業をいくつか紹介していきましょう。
山梨県北杜市の事例
事業実施の背景
高齢化率が約30%にまで達した山梨県北杜市では、比較的健康で元気な高齢者が多い半面、地域特性上、車を運転しなければ外出できず、自宅で孤立化する高齢者が増加する傾向にあることが問題視されていました。
また、認知症に罹患する高齢者の割合も高い傾向にあることから、要支援1、要支援2、2次予防事業対象者に対して、実態調査を実施しました。すると、これまで把握しきれなかった住民ニーズや、孤立化する高齢者の健康リスク、サービスの担い手となり得る地域資源が存在することが明らかとなりました。
事業内容
北杜市では、これらの事業者、団体と連携を図り、地域の人が誰でも気軽に立ち寄ることができる施設の運営や、安否確認、生活見守りを兼ねた配食サービス、身体機能の維持、改善を目的とした転倒予防教室などを展開。
取り組みの効果
その結果、介護支援ボランティア登録者の増加など、住民一人一人が高齢者の暮らしを支えようとする意識の向上が図られています。
大分県杵築市の事例
事業実施の背景
要介護認定 率が全国平均よりも突出する傾向にあった大分県杵築市では、要介護認定率の上昇に歯止めをかけようと、要介護申請の相談に訪れた段階でのスクリーニングを強化する取り組みを開始しました。
事業内容
スクリーニングでは、高齢者の心身状態・生活状況をより適格に把握するため、関係機関及びそれに関わる専門職の人材育成を徹底し、意識改革を促進。また、相談に訪れた高齢者に対し介護予防に通じる多様な場を提案できるよう、認知症予防教室や運動教室、高齢者サロン、公民館を拠点としたサークル活動など、介護予防に通じる場の整備、推進を図りました。
取り組みの効果
これらの取り組みにより、要介護申請に至らず過ごす高齢者が増え、中には、介護予防活動への参加をきっかけに、要支援、要介護状態が改善するケースも見られています。
長崎県佐々町の事例
事業実施の背景
長崎県佐々町では、平成18年に 地域包括支援センター が設置されてから、国が示す特定高齢者施策等のマニュアル通りに取り組みを始めましたが、認定率、介護保険給付費は増加していくばかりでした。しかし打開策を探るうちに、高齢者のニーズの多様化、地域性を考慮した、佐々町独自の方向性を示す必要があると気づき、行動に移しました。
事業内容
「要支援」と「非該当(自立)」を行き来する高齢者に対し、介護認定の有無により受けられるサービスに差が生じてしまう状況を改善するため、二次予防高齢者施策の対象者枠を「要支援者」まで拡充。
また、高齢者を含む介護予防ボランティアが自宅を訪問する日常生活上の支援や、地域デイサービス、生きがい教室や個別運動教室などの介護予防活動を開催することにより、要支援から改善しても通える場の確保、生活支援の体制作りに取り組みました。
取り組みの効果
「できないことの支援」ではなく、「できていることの継続」と「可能なことを増やす」支援により、高齢者の自立度が向上し認定率、介護保険給付費が低下。身近な会場や地域資源を活かした通いの場、参加の場を作り、住民ボランティアが活躍することにより、住民同士の絆が深まるという効果が生まれました。
総合事業は、住民が主体となって高齢者の暮らしを支える「地域包括ケアシステム」の完成に向けた第一歩であるとも言われています。高齢になって介護が必要になっても、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けるために、市町村及び関係機関、住民が連絡・連携を密に取り合い、体制を強化していくことが大切です。