通所介護(デイサービス)の利用者が、夜もそのまま施設に宿泊できる、通称「お泊まりデイサービス」というサービスがあります。このサービスは、家族の介護負担軽減や要介護者の気分転換などを理由に年々需要が高まる傾向にありますが、介護保険制度外のサービスであることから、事業者によってサービスに差が生じやすいという問題も指摘されています。
お泊まりデイサービスの運営基準と問題点
お泊まりデイサービスは、介護保険制度外の自主事業として取り扱われます。運営方法や人員、設備内容は事業者にすべて一任されており、サービス提供にあたり市町村または都道府県から事業指定を受ける必要もありません。そのため、利用者のニーズに応じてサービス内容を柔軟に設定する優良事業者が出てくる一方で、狭い部屋に何人もの要介護者を雑魚寝させるという劣悪な環境で運営を行う悪質事業者も出てきてしまっているのが現状です。こういった悪質事業者を生み出さないために、厚生労働省では、標準的な宿泊日数や利用人数を示すガイドラインを作成し、平成27年4月30日に発表しました(参考:厚労省通知vol.470 「指定通所介護事業所等の設備を利用し夜間及び深夜に指定通所介護等以外のサービスを提供する場合の事業の人員、設備及び運営に関する指針について」WAM NETへ )。ただ、このガイドラインに従わなくても基本的に罰則はありません。
東京都におけるお泊まりデイサービスの人員基準
ただし、東京都をはじめとする一部の自治体では、お泊まりデイサービスを実施する事業者に対し、明確な運営基準を定め、悪質事業者を排除する取り組みが以前から行われています。
東京都を例に話を進めると、東京都は「東京都における指定通所介護事業所等で提供する宿泊サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成23年5月1日施行)」を設け、お泊まりデイサービスを提供する事業者に対し遵守すべき事項を定めています。人員基準に関しては、看護職員または介護職員を常時1人以上配置し、そのうち介護職員については、介護福祉士または介護職員初任者研修を修了した者が望ましいとされています。また、お泊まりデイサービスを提供する事業者は、サービスに従事する者の中から責任者を定めることが義務づけられています。
東京都におけるお泊まりデイサービスの設備基準
設備に関しては、利用定員と宿泊室について基準が定められています。利用定員は日中実施されるデイサービスの利用定員の2分の1以下とし、1室1人の宿泊を原則としています(利用者の希望によっては2人とすることも可)。宿泊室に関しては、広さを7.43平方メートル以上とし、利用者のプライバシーが保たれるようパーテーションや家具などで仕切りを設ける必要があるとされていますが、壁や襖を設ける必要はないとされています。また、災害時の緊急避難に備え、消防法に基づいた消火設備や避難路を確保することも定められています。
東京都におけるお泊まりデイサービスの運営基準
東京都の事業者は、利用者に対しサービス内容や利用規約を記した文書を交付し同意を得た上でサービスを提供しなければなりません。また、利用者がサービスを受けた日時やその時の心身状況を書類等に記録し、必要に応じて利用者本人や家族に提示できるようその書類等を保管することが義務づけられています。また、利用者の生命または身体を保護するためにやむを得ず必要な場合をのぞき、手足を縛る「身体拘束」は禁止されています。
お泊まりデイサービスに関する指定基準が設けられていない地域もありますが、そういった地域でお泊まりデイサービスを実施する場合でも、サービスの質を一定以上にするために、まずは上記で紹介した厚労省のガイドラインを参考にしてみるのはいかがでしょうか。
※上記の内容は2015年6月12日時点の情報を元に執筆しています。