どのような世界にもマニア、好事家の類はいるものです。 世にも珍しい介護保険請求のマニアの部屋へようこそ。 このマニアの部屋でご紹介するのは、介護保険の料金計算のルール。 本当は、こんなこと知らなくてもいいんです。だって、全部請求ソフトが全部計算してくれますから。 でも、知っておくとちょっと、ほんのすこーし、便利かもしれません。

請求のおねえさん

ナビゲーターは、介護保険請求マニアである「請求のおねえさん」。細かな国保連請求ルールと格闘するうちに世にも珍しいマニアになりました。
好きな秋の味覚:秋刀魚は譲れない!

    羊さん

    今日のお相手は、介護事業所で働く「羊さん」。最近国保連請求を担当することになりました。
    好きな秋の味覚:何と言っても栗ご飯!

      ある利用者さんのケアマネさんから「今月は限度額オーバーするので自費でお願いします」と言われました。「限度額オーバー」現場では時々耳にする言葉ですが、どういう意味なんですか?

      介護保険は無制限に利用できるわけではなく、利用者さんの介護度に応じて介護保険が使える量が決まっています。「区分支給限度基準額」と言います。これを超えると限度額オーバーということですね。

      介護保険が使える量には決まりがあるんですね。ということは、ルール通りでいくと限度額を超えてしまったらサービスはお断りしないといけないのでは!?

      いいえ、「区分支給限度基準額」を超えたら絶対サービスを受けられないというわけではありません。介護保険の適用にはならないけれど、全額自己負担することでサービスは受けられますよ。

      なるほど、良かった!

      介護サービスはケアマネさんの作ったプランに基づいて行うので、ケアマネさんがサービス全体を見て、どの事業所でオーバー分を全額自己負担するか指示してくれます。

      それで今回はウチで全額自己負担、つまり自費で請求するという指示があったんですね。

      その通りです。それでは今日は「区分支給限度基準額」について詳しく見ていきましょう!

      区分支給限度基準額

      ・区分支給限度基準額は介護度ごとに単位数で決まっている
      ・どのサービスで何単位使うかは利用者さんの状況に合わせてケアマネさんが管理

      居宅サービスの区分支給限度基準額は、このコラムを書いている現在(令和3年10月)、以下のようになっています。ひと月に使える介護保険の上限です。

      要介護状態区分区分支給限度基準額
       要支援1 5,032単位
       要支援2 10,531単位
       要介護1 16,765単位
       要介護2 19,705単位
       要介護3 27,048単位
       要介護4 30,938単位
       要介護5 36,217単位

      「単位数」で決められているので、実際にかかる金額はこの単位数に「地域単価」を掛け算したものです。
      「地域単価」は地域・サービスによって10円~11.40円まで差があります。
      「地域単価」については「レセまにあ 第1回 料金計算の基本と端数処理 前編」もご覧ください。

      現在の区分支給限度基準額になったのは令和元年10月で、消費税増税に伴って介護報酬が全体的に引き上げられたときでした。サービスの単価は上がったのに区分支給限度基準額がそのままだと、使えるサービスが少なくなってしまうので、合わせて引き上げられた、という形です。区分支給限度基準額が変わるときには官報で発表されます。

      この区分支給限度基準額の中でどのようにサービスを組み合わせるかは自由です。ケアマネージャー(介護支援専門員)さんに依頼して、サービスのプランを組み立ててもらいます。(実は介護保険のプランは利用者さん自身で立てることもできます!請求のおねえさんは将来自分でやってみようかな?)

      限度額オーバー

      限度額を超えた分は全額自己負担

      区分支給限度基準額の範囲内でサービスを利用したときは、1割(所得に応じて2割・3割)の自己負担ですが、区分支給限度基準額を超えたときには全額自己負担になります。

      こんな例を見てみましょう。
      要介護1と認定されたAさん。区分支給限度基準額は16,765単位です。普段は訪問介護・通所介護・福祉用具を利用していますが、介護者のレスパイトのため時々ショートステイを利用する月があります。普段の訪問介護・通所介護・福祉用具の利用の時には区分支給限度基準額の中に収まっているので、自己負担は1割です。しかしショートステイが入ると区分支給限度基準額を191単位オーバーするようです。
      この場合、区分支給限度基準額いっぱいの16,765単位までは1割負担ですが、オーバーとなった191単位は地域単価を掛け算した全額を自己負担します。

      限度額オーバー

      Aさんは福祉用具で調整を行って全額自己負担することになりました。Aさんの「サービス利用票別表」を見てみましょう。「サービス利用票別表」は利用したサービスの単位数や金額が表示された表です。

      サービス利用票別表

      「区分支給限度基準を超える単位数」の列に191単位と書かれています。191単位オーバーしており、介護保険の適用にならないことを示しています。

      一番右の列「利用者負担(全額負担分)」には1,910円と書かれています。191単位×10円(地域単価)=1,910円が全額自己負担になったことを示しています。

      福祉用具700単位のうち、オーバーしなかった分は介護保険が適用されるので、「区分支給限度基準内単位数」は509単位(700単位-191単位)となります。

      どのサービスで全額自己負担するのか?

      ・全額自己負担にするサービスの選び方に決まりはない
      ・地域単価の安いサービスから調整すると少しお得

      通常、Aさんのようにいろいろなサービスを組み合わせることで限度額オーバーが発生します。
      それでは、どのサービスから全額自己負担に回すのでしょうか?

      実は、全額自己負担にするサービスの選び方にはルールはありません。Aさんの例では福祉用具で調整しても良いし、通所介護・訪問介護・短期入所で調整するのも間違いではありません。

      しかしながら、調整するサービスによって少しだけですが自己負担金額が変わってしまうことがあるんです。 下の表を見てください。令和3年度から5年度までの各サービスの地域単価です。

      令和3年度から5年度までの各サービスの地域単価

      1級地の福祉用具の単価と、訪問介護の単価を比べてみましょう。1単位あたり1.40円の差があります。この場合訪問介護で全額自己負担に調整した場合は、福祉用具で調整したときより、調整する単位数×1.40円分高くなってしまいます。「その他」地域以外では、地域単価のなるべく安いサービスから調整すると少しお得になります。そのため福祉用具などのなるべく単価の安いサービスから全額自己負担に回す傾向があるようです。

      もちろん金額以外の理由があって調整するサービスが決まる場合もありますので、そこはケアマネージャーさんの判断に従ってくださいね。

      参考資料

      ※いずれもこの記事を書いた令和3年10月時点の情報です。必ず最新の情報で確認してください。

      区分支給限度基準額

      厚生労働省のHP「令和元年度介護報酬改定について」のページを参考にしました。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/housyu/kaitei31_00005.html
      [厚生労働省のWebサイト(外部サイト)が開きます]

      区分支給限度基準額について記載があるのは「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部を改正する告示(PDF)」です。ページ数77ページから79ページにかけて記載されています。

      各サービスの地域単価

      介護保険事務処理システム変更に係る参考資料(確定版)の一部訂正(令和3年4月27日事務連絡)の「Ⅰ介護報酬改定関係資料」資料5 ①地域区分の見直しについて
      https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2021/0331153127461/20210331_008.pdf
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